プラダとミウッチャ
プラダはマリオ・プラダによって1913年、ミラノで創業します。当初は革製品の上質さから評判でしたが、マリオの孫娘ミウッチャ・プラダがメゾンの一員となると、巧みなブランディングによって、高級ファッションブランドとして認識されるようになっていきます。ミウッチャは時代の欲求をうまく汲み取り、エフォートレスな使いやすさと茶目っ気あるエレガンスを兼ね備えたスタイルを打ち出します。この精神は1985年に発表された、ナイロンバッグ「Vela(ヴェラ)」をみれば明らかです。これは爆発的にヒットし、ブランドの代表作として今なお愛されているバッグです。
さらにミウッチャの才能はその創造性だけでなく、ビジネスにおいても発揮されています。彼女のディレクションでプラダは1988年プレタポルテ(高級既製服)に参入します。その後、若年層に向けたより手に取りやすい価格帯のブランド「Miu Miu(ミュウミュウ)」を1993年に立ち上げ、翌年にはメンズウェアにも手を付けます。この“ミュウミュウ”という名前はミウッチャ・プラダの愛称に因んでいます。化粧品部門にも参入し2000年には香水も発表します。こうしてプラダはミウッチャと夫のパトリッツィオ・ベルテッリの見事なビジネス戦略によって、世界的ラグジュアリーブランドに発展していきます。プラダグループは「ジルサンダー」や「ヘルムートラング」などのファッションブランドを傘下に収める一方で、ファッションにとどまらず世界的ヨットレース「アメリカズカップ」のオフィシャルスポンサーを務めたり、様々なアートや文化的活動を促進する「プラダ財団」を設立します。これはミウッチャ・プラダのコンテンポラリーアートへの深い愛が形になったもので、「プラダ ニューヨーク エピセンター」の壁を彩る壮大な壁紙シリーズはその芸術性の高さから、MoMAニューヨーク近代美術館にも収蔵されています。
ちなみにこのエピセンター(=震源地)と呼ばれるプラダの世界旗艦店は世界に3店舗しかなく、先述のニューヨークとロサンゼルス、そして東京・青山にあります。青山のエピセンターはプラダのロゴを彷彿させる菱形のガラスを張り合わせたようなデザインがユニークで、この建築は北京オリンピックのスタジアムを手掛けたことでも有名なスイス人建築家「ヘルツォーク&ド・ムーロン」によるものです。
プラダのスタイル
先述のようにプラダがファッションブランドとして名声を確立した裏には、ミウッチャ・プラダの明確な世界観があります。彼女の打ち出すモードには、トレンドを捉えておいて”あえて“迎合しない、言わば「あまのじゃくのエレガンス」があります。革製品の老舗としての卓越したクラフトマンシップをベースに、あえて簡素なデザインにしてみたり、不思議な素材を使ったり、個性的なモチーフを大胆にあしらったりします。ミウッチャの美的世界では繊細なディテールと“いびつさ”が調和していて、その感覚は彼女の現代美術への愛着という側面からも理解できます。
Pocono、プラダのアイコン
1985年、プラダは「Pocono(ポコノ)」と呼ばれる素材を使用したシンプルなバッグパック「Vela」を発表します。このPoconoはプラダが独自に開発した防水性能を備えたナイロン素材です。Poconoはミウッチャの先見性を象徴しています。そもそもプラダは良質な革製品で知られるブランドでした。にもかかわらずレザーではない素材を大胆に使用したバッグを作り出したのです。ミウッチャはこの時、ナイロンという素材をラグジュアリーファッションに持ち込んでみたら面白いと考えたようです。80年代は豪華できらびやか、グラマラスなものが持てはやされていましたが、90年代が近づくにつれて、それが少しずつ変わろうともしている時代でした。
このような、時代の潮流に“スパイスを効かせる”彼女の発想は、常にプラダのクリエーションの根幹を支えています。Velaはインダストリアルなナイロン素材のシンプルなバッグでしたが、これは女性が家庭から出て、社会でますます大きな役割を果たすようになった時代の要求にあった、機能性を備えていました。この時代はエルメスが「バーキン」を生み出した時期と重なっていて、バーキンもやはりこの時代の女性の声を形にしたバッグでした。
Canapa
Poconoのように身近な要素をラグジュアリーに昇華させるのは、ミウッチャ・プラダがもつ天性の才能で、人気の高いバッグ「Canapa(カナパ)」もそれを証明しています。Canapaはキャンバスを生地に使用したハンドバッグでフロントに大きくプラダの名前がプリントされたデザインが特徴的です。キャンバス生地はデニムに使われていることからもわかるように、耐久性の高い素材で、しかも使い込むほどに味わいが出てくる点も魅力的です。
そのため、Canapaも日常使いに非常に適しているアイテムで国内外の多くのセレブリティにも愛用されています。人気アイテムのため、様々なデザインやカラー、サイズが展開されており選択肢が多いのもうれしい点です。SSサイズ(約28cm 高さ20cm 幅15cm)はちょっとした外出に便利なサイズ感、Mサイズ(横35cm 高さ23.5cm 幅22cm)は書類やノートパソコンも収納できる便利な大きさ、Lサイズ(横41cm 高さ25cm 幅25cm)は旅行や大荷物を抱えているときに便利です。
最後に
このようにミウッチャ・プラダは常に時代の風向きを敏感に感じ取り、新たな風向きに乗せてプラダというブランドを巧みに舵取りしてきました。2021年より、自身のブランドやジルサンダー、クリスチャンディオールで活躍したラフ・シモンズとともにクリエーションを手掛けており、この2人のタッグに大きな注目が集まっています。