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パラジウムとは?
「パラジウム」と言われても、いまいちピンとこない方が多いのではないでしょうか。まずは、この金属の特徴について解説します。
パラジウムの特徴
パラジウムはレアメタルの1つであり、プラチナのような白銀色の金属です。
融点が鉄と同じ温度で加工しやすいという特徴があり、金やプラチナなどの合金素材として、ジュエリーや工業製品で使用する部品の製造に活用されています。また、水素を体積の900倍から1,000倍ほど吸収するという特性があり、水素社会実現へのエネルギー源として重要な役割を担っています。
意外にも、私たちの身近なところにある金属といえるでしょう。
パラジウムの産地や用途
パラジウムの主な産出国はロシアと南アフリカの2か国で、ほかの金属と比べると限定的です。採掘量も金が年間3,000トン程度に対してパラジウムはおよそ200トンと、希少価値の高さがうかがえます。
しかし、使用用途の範囲は広く、自動車の排気ガス対策の触媒や歯科医療で使用する銀歯、ジュエリーなどさまざまです。金やプラチナなどに比べて強度が高いため、あらゆる媒体で使用されています。
パラジウムの価格推移と高騰理由
パラジウムの価格は、ここ数10年でどのように変わっていったのでしょうか。小売価格をもとに高騰した理由を紐解いてみましょう。
【過去10年】パラジウムの価格推移
2014年以降のパラジウムの価格推移を表にまとめてみました。以下の通りとなります。
年 | パラジウム価格(1gあたり) |
---|---|
2014年 | 3,505円 |
2015年 | 3,558円 |
2016年 | 3,148円 |
2017年 | 4,217円 |
2018年 | 5,059円 |
2019年 | 7,810円 |
2020年 | 11,176円 |
2021年 | 11,561円 |
2022年 | 13,766円 |
2023年 | 8,618円 |
2024年 | 6,748円 |
※小売価格における各年度の最高額をもとに作成しています。
2014年から少しずつ価格が高騰していきますが、2022年をピークに下落しました。高騰していた当時は金・プラチナよりも高い小売価格でしたが、2024年2月ごろには下回り、2025年現在の価格は5,000円から5,800円程度を推移している状況です。
2022年と比較すると、およそ60%程度下落しています。
2022年までパラジウム価格が高騰した理由
パラジウムは希少価値があるにもかかわらず、価格が低い状況が続いていました。しかし、2015年にドイツの大手自動車メーカーであるフォルクスワーゲンがディーゼル車の排ガスを不正処理をしていたことにより、価格が徐々に上向きはじめたのです。
この事件により、ディーゼル車の排ガス規制が強化され、ガソリン車の需要は増加します。しかしその反動で、ガソリン車の触媒用途として使用していたパラジウムが供給不足に陥りました。それにより、パラジウムの認知と需要が高まり、価格が高騰していったのです。
さらに産出国であるロシアもウクライナ戦争による地政学リスクで高騰に拍車をかけ、2022年には小売価格が13,000円を超えました。
パラジウムの下落理由と今後の相場
需要増だったにもかかわらず、2022年をピークに下落へと転じたパラジウムですが、その背景には何があったのでしょうか。その理由と今後の相場について解説します。
パラジウム価格が下落している理由
現在はプラチナよりも価格が下回ることが多いですが、その主な要因は自動車産業の低迷にあります。
年々強化される排ガスの規制に加え、パラジウムの価格が1万円以上と高騰したことから、同じ性質をもつプラチナを触媒装置に使用するようになり、パラジウムの需要が減少しました。もともと需要の8割ほど自動車関連が占めていたため、2023年には価格が大幅に下落したのです。
さらに、触媒装置が不要な電気自動車の普及も、パラジウム価格の下落を加速させる要因となっています。
パラジウム価格が今後も下落する可能性
ここ2、3年の下落は、急な高騰が続いた反動ともいえますが、今後も下落し、2014年ごろの水準に戻る可能性は高いと見られています。プラチナへの代替、電気自動車の普及による需要減少はもちろんのこと、新しい使い方が見出せなければ厳しいでしょう。
しかし一方では、供給不足の観点から価格が上昇するとの見方も出ているようです。
パラジウムの買取相場
パラジウムは投資目的の取引が盛んに行われていますが、2022年から下落へ転じて以降、5,000円程度を推移している状況です。
2025年4月15日時点での買取最高価格は以下の通りです。金・銀・プラチナの買取価格とあわせてご覧ください。
金属名 | 買取価格 |
---|---|
パラジウム | 5,049円 |
金 | 16,436円 |
銀 | 177円 |
プラチナ | 5,311円 |
※上記は2025年1月から4月15日時点での買取最高額を表記しています。
このように、現在は金・プラチナよりも買取価格が低い状況です。やはり、自動車産業への需要低下が要因と考えられます。価格高騰による影響で、排ガスの触媒として利用していたパラジウムがプラチナへと変わったことが影響しているでしょう。
今後も下落が続くとの予想が多いですが、2025年は供給不足が解消されつつあると予測されています。将来的に自動車産業で再度使用される動きがあれば、下落が抑えられ、価格が上がる可能性もあるとの見方が出ているようです。
今後もパラジウムの市場動向に注目しましょう。
パラジウムの将来性
価格の下落が続いているパラジウムですが、以下のような分野において需要の増加が予測されています。その理由について、それぞれ見ていきましょう。
化学産業における需要予測
パラジウムは、化学反応を加速させる触媒として欠かせない金属です。炭化水素の結合形成や水素化反応に優れており、製品の高純度化やプロセスの効率化を実現しています。
また、パラジウムの触媒は二酸化炭素の削減にも寄与しており、水素というクリーンなエネルギー社会への実現における重要素材として注目されています。今後も需要が増加すると考えられます。
環境規制強化における需要予測
近年、地球温暖化対策や排ガスの規制が強化されていますが、パラジウムは主に自動車の排ガス浄化触媒として活用されています。排気ガスから出る有害物質を無害なものに変換するためです。
さらには、パラジウムの触媒性能を活かしたナノシートなどの新技術が生み出されており、持続可能な社会の実現に一役買っています。環境規制の強化が進めば、さらに需要が高まるでしょう。
自動車産業における需要予測
排ガス規制が厳しくなる中、自動車産業において有害物質を無害化できるパラジウムが注目されています。
主にガソリン車の排ガス浄化装置の触媒に使われていますが、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車にも使用されており、自動車の開発においてパラジウムは欠かせない金属です。
現在は高騰の影響でプラチナが代わりに使用されていますが、プラチナが供給不足のため、パラジウムが再度使用される可能性があるとの見方があります。まだまだガソリン車の需要は高いため、パラジウムが使用される流れとなれば、需要は増加するでしょう。
ただし、電気自動車の普及が拡大すれば、利用が減少する可能性があります。
電子機器分野における需要予測
電気機器の部品においても、パラジウムが使用されています。主にセンサーやコンデンサー、電気接点の製造に使用されることが多いです。
パラジウムは耐食性があり電気伝導率が高いため、電子機器の寿命延長に寄与し、高性能デバイスの生産や通信機器の普及につながっています。
半導体の製造にもパラジウムは欠かせないため、電子機器の進化に伴い、その需要は今後さらに高まると予測されています。
パラジウムの将来性に影響する技術開発
化学産業や代替材料において、パラジウムを使用した開発が進められています。具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。
化学産業での新技術開発
化学産業の分野において、パラジウムを使用した触媒反応の新技術が開発されています。これにより、化学プロセスの効率化が実現でき、環境問題やエネルギー問題などの解決向けて促進することが期待されています。
近年は、高効率な触媒反応を低コストで実現するための研究が進んでいるようです。新技術の開発が進めば、パラジウムの価値がさらに高まることが期待できます。
代替材料の研究開発
価格が高騰したことがきっかけで、パラジウムに替わる材料の研究も進められています。プラチナやルテニウムやニッケルなどが挙げられており、触媒材料として提案されています。
この研究が進むことでパラジウムの使用が減ってしまう可能性がありますが、高性能を求める分野ではパラジウムが必要となるでしょう。
パラジウムが抱える将来的リスク
将来的にも需要が見込まれているパラジウムですが、同時にリスクや課題も存在します。キーワードは「供給不足」と「価格」です。
地政学的リスク
地政学的リスクとは、「特定の地域で発生している政治的・軍事的な緊張が世界経済に悪影響を与えるリスク」のことです。パラジウムの主要産出国はロシアと南アフリカの2か国であり、どちらも戦争や紛争によるリスクが高いため、パラジウムの供給不足を招く可能性があります。
また、鉱山での生産コストや規制強化も価格変動に影響を与えています。安定した供給の実現には、金や銀に含まれたパラジウムのリサイクルが求められるでしょう。
価格変動リスク
他の金属でも同じことですが、パラジウムは需要と供給のバランスや投資家の動向によって価格は大きく変動します。もし、価格が高騰してしまうと、パラジウムの変わりとなる代替材料が使用され、今回のように価格が大幅に下落してしまうでしょう。
価格の安定化が、パラジウム市場を健全化させるカギとなります。
まとめ
価格高騰が原因で2022年を境に下落が続いているパラジウムですが、環境汚染対策や脱炭素社会実現の可能性を秘めており、決して需要の低い金属とはいえません。供給不足の問題も改善の兆しが見えている状況ですので、需要増加により価値が上がることを期待しつつ今後の価格動向を見守りましょう。