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金とは? 2つの特徴
金(Gold)は、古代からその美しさと希少性から、多くの金属の中でも非常に高い特別な価値を持つ貴金属です。原子番号「79」で、元素記号はラテン語「Aurum(暁の輝き)」に由来する「Au」と表記されます。
自然界では特有の山吹色の輝きを放ち、変色や腐食がほとんどなく、長期間にわたり安定した状態を保つことができます。
ジュエリーや装飾品として広く用いられるほか、資産価値も高いため、多くの人が投資対象として保有しています。
展延性
展延性とは、金属が伸び広がる性質を指します。特に金は展延性が高く、引っ張ったり力を加えたりしても壊れることなく変形します。
金箔はその代表例で、厚さわずか0.0001ミリメートルまで薄く伸ばされ、工芸品や建物の装飾にも使用されています。京都の金閣寺などの豪華な輝きも、この特性によって実現しました。
しかし、金はやわらかいため耐久性が不足しがちです。そのため、普段使いのアクセサリーには銀や銅などを混ぜた「金合金」が用いられます。
耐腐食性
耐腐食性とは、金属が腐ったり錆びたりしない性質を指します。多くの金属は酸素や水と反応して変質します。
たとえば、鉄は酸化すると錆び、銅製の10円硬貨も酸化によって黒ずみます。しかし、金は酸化しないため錆びないのです。
古代エジプト時代に作られたツタンカーメンの黄金マスクが、数千年を経た現在も美しく輝いているのも、この特性によるものです。
化学的に表現するなら、金はイオン化傾向が低く、極めて安定している金属であり、変質や変色が起こることはありません。
金の用途
貴金属の中でも特に人気が高い金は、近年の金相場の上昇によりその価値も増しています。そのため、金について知りたいという人が増えているようです。
金は他の金属にはない優れた特性を持ち、私たちが気づかない分野でも活用されています。では、どのような用途に使われているのでしょうか。
ジュエリー
金の代表的な用途としてまず思い浮かぶのは、指輪やネックレスなどのジュエリーです。実際、世界で消費される金の半分以上が、宝飾品に使われているといわれています。
ジュエリーにおける金の価値は、その純度によって異なります。金は柔らかく傷つきやすいため、一般的には純金の75%を含む18金(K18)が多く用いられています。
金製品の真贋は、刻印があるかどうかを確かめてください。刻印は小さく打たれているため、宝石用ルーペや顕微鏡で確認する必要があり、しかも偽の刻印も存在するため注意が必要です。
歴史的建築物
日本では古くから、金が歴史的な建築物に多く使用されてきました。特に仏教建築で尊重されているのは、金の美しさと神聖さから、仏とその教えの尊さを感じられるからです。
金箔を使った代表的な例として、外観全体が金箔で覆われている京都の金閣寺、平泉の中尊寺金色堂が挙げられます。
また、奈良の東大寺の大仏像は戦火を受けながらも、何世代にもわたりその威厳を保っています。金の耐腐食性が、これらの貴重な歴史的文化財の保存を支えてきました。
投資
近年、将来に備えて金を投資資産として選ぶ人が増えています。金は、経済不安定な時期に価値を発揮するため、2024年には史上最高値を記録し、その需要はさらに拡大しています。
金の投資方法には、インゴット(ゴールドバー)や金貨の購入があり、個人でも簡単に手に入れることができます。しかし、盗難のリスクもあるため、保管方法を考えることが必須です。
また、純金積立であれば、現物を所有せずに、少額から始められる手軽な投資として人気があります。
工業用品
私たちの目に見えない場所でも、金は重要な役割を果たしています。工業やエレクトロニクス分野では、その優れた耐腐食性、導電性、延展性が評価されています。
具体例として、スマートフォンやパソコンの電子基板には、銅線のメッキに金が使われています。また、半導体やLED、宇宙飛行士のヘルメットなどにも利用され、再利用技術の研究も進んでいます。
東京2020オリンピックのメダルが、廃棄された小型家電から集めた金属で作られたことも話題になりました。
医療器具
金は、医療分野でも幅広く採用されています。特に歯科で使われる「金歯」はその代表例です。
高価で目立つため避ける方もいますが、金歯にはいくつかの利点があります。金は展延性に優れており、強度が高く、使用するほどかみ合わせがよくなります。
また、酸化しにくく金属アレルギーの心配が少ないほか、吸水性がないため口内で劣化しません。加えて、金歯は銀やセラミックよりも長持ちします。
その他にも、リウマチやがん治療、検査用コーティング剤などにも活用されています。
美容用品
美容の分野でも、金は古くから使われてきました。特に、古代エジプトのクレオパトラが金を美容に取り入れていた話は有名です。
現代でも、金箔や金粉を使用したフェイスパックや美容液が人気で、エステには全身を金箔で包むコースもあります。
金には生体電流に類似した微弱電流が流れているため、肌のターンオーバーをサポートする性質もあります。紫外線を跳ね返すため日焼け防止対策や、くすみやシミのケアとなる美白効果に期待が寄せられています。
食用金箔
金箔をあしらったソフトクリームや金箔入りのお酒は、豪華でビジュアルにインパクトがあります。
食用金箔は、厚生労働省によって食品添加物として認可されており、不純物を取り除いてあるため安心して食べることができます。
ただし、金は体内に吸収されず、蓄積もされずに排出されるため、残念ながら栄養価はありません。とはいえ、古代から愛されてきた金の輝きは、料理やスイーツを華やかに彩り、贅沢な気分をもたらしてくれます。
金の歴史
金は文明の黎明期から「貴金属」としてその価値を持ち続けてきました。金の持つ輝きや希少性は、時代を超えて常に特別な存在であり続けています。
金と人類
金は、人類が初めて発見した金属であるといわれています。発見当初は加工技術がなく、主に装飾として使用されていました。
古代エジプトでは墓の供物や神聖な物品に使われ、特別な力を持つと信じられていました。紀元前1300年頃には高度な金採掘技術と金純度の測定方法が確立され、7世紀頃には金が貨幣としても使用されます。
中世では、他の金属から金を作り出そうとする「錬金術」が行われ、権力者たちが追い求めたことがうかがえます。
18世紀初頭、アメリカのゴールドラッシュや世界各地で続いた金の探索は、都市を繁栄させるきっかけとなりました。その後も装飾品や貨幣、芸術作品に用いられています。
金と日本人
日本においても金は長い歴史の中で重要な役割を果たしてきました。装飾品や貨幣としてではなく、建築物や神社仏閣に使用されてきたことが特徴的です。
マルコ・ポーロが「黄金の国ジパング」と称したように、日本は金を贅沢に使う国として映ったのでしょう。
かつて金産出国であった日本は、8~15世紀にかけて陸奥や佐渡、伊豆半島、九州などで金が採掘されました。現在も熊本県と鹿児島県にまたがる菱刈鉱山が操業しており、年間6~7トンの金を産出しています。
金と貨幣
紀元前から金貨が発行され、国際通貨として広く流通していました。金はその普遍的な価値により、貨幣制度の基盤となり、金貨以外にも多くの国で重要な役割を果たしています。
19世紀、銀の供給過剰が引き金となり、金本位制度が広まりました。この制度では、金が自国通貨の価値を保証していましたが、その供給に依存していたため、1929年の大恐慌後に崩壊しました。
現在でも、経済不安定な国々では、通貨より金をより重要な資産と見なす傾向があります。
金の価値が高い理由は? 金の価値の決まり方
金の価値は時代や状況によって変動します。では、高い価値を保ちながらも常に一定ではない金の価格は、どのように決まるのでしょうか。
金の純度
金製品に見られる「K24」や「K18」といった刻印は、金の純度を示すものです。これは「カラット(Karat)」の略称で、純度の指標となる品位を表します。
金はやわらかいため、他の金属と合金にして硬度を調整します。その際、金の割合が高いほど価値が上がります。たとえば、K24は純度99.99%で、主にインゴットや金貨に使用されるほぼ純金です。
一方、K22やK18は少し純度が下がり、ジュエリーや高級時計などに使われます。実用性が高いものの、金としての価値は低くなります。
需要と供給のバランス
金が高い価値を持つ背景には、何よりもその稀少性があります。現在の産出量では、世界的な需要を十分に満たすことは難しく、将来的にも供給の増加は限られると予想されています。
美しさだけでなく「価値の保存手段」としての需要が強いことが影響しています。情勢不安が続く国々では、自国通貨の信頼性が低いため、安定した資産である金が重宝されます。
このような時期には金の価値が急上昇しますが、経済が安定すればその価格は下がることもあります。
為替相場
金の価格はドル建てで取引されるため、為替レートの影響を受けます。日本国内での金の採掘は再開されつつありますが、現在のところほとんどが輸入に頼っています。
そのため、円安時には金価格が上昇し、円高時には下落する傾向があります。また、金そのものの価格に加え、保険料や輸送料などの諸費用が加わることで、最終的な価格が決まります。
金を採掘する方法
金は地球上のさまざまな場所に存在し、石や砂、海水などにも含まれています。そのため、金の採掘方法にはいくつかの種類があります。では、どのような方法が用いられるのでしょうか。
鉱脈から採掘する
金を採掘する方法の一つに、鉱脈からの採掘があります。自然界において、石英や炭酸塩、時には硫化物を含む鉱物に金は存在しています。
鉱脈は地下に存在する金を含んだ鉱石の層で、掘削作業により取り出されます。まず、鉱脈を見つけるために地質調査を行い、その後、地下深くに穴を掘って鉱石を採掘します。
採掘された鉱石は、金を取り出すために精錬処理を受けることになります。この方法は大量の金を取り扱うため、手間と時間がかかりますが、効率的に金を得ることができます。
砂金を採掘する
金を含む鉱石が風化し、水流に運ばれることで、砂金として河川や湖に沈殿します。細かな金粒は川底や湖底に集まり、砂や小石と混ざった状態で見つかります。
この金を含んだ砂や小石を、パンニング皿に入れ、流水で洗い流していきます。金は重いため、他の軽い物質と分離し、皿底に残ります。
砂金採りとしてオーソドックスなこの方法は、少量の金を効率よく取り出すのに適しています。
銅や鉛などの副産物として採掘する
金は、銅や鉛などを精錬する過程で副産物として採掘されることがあります。鉱石の中には金を微量含んでいる場合があり、これらの金属を取り出す過程で金も一緒に分離されます。
また、岩の隙間に金を含む熱水が流れ込むと、変成岩や火成岩に微量の金が鉱染の形で含まれることがあります。
このように、金は単独の塊として形成されることは稀ですが、他の金属を精錬する過程で一緒に見つかることがあるのです。
海中から採掘する
海中にも金が含まれており、海底鉱床からの掘削と海水からの抽出です。
海底には金を含む鉱物が豊富に存在する場所があり、これらを掘削機やドリルで掘り出し、海上に運搬します。近年ではリモート操作の機器や潜水艦を使って、環境に配慮しつつ採掘を行う技術が進んでいます。
また、海水にも金は含まれていますが、1000キログラムの海水に対して0.1~2マイクログラム程度と非常に微量です。抽出技術は存在しますが、その量の少なさから商業的に採掘されることはほとんどありません。
金の取引所や取引方法
金の取引所では、金地金やインゴットを売買する市場が世界中に存在します。取引方法には現物取引と先物取引があり、金の価値を基に現金や約束された未来の取引が行われます。
金取引の仕組みと世界の主要市場
金取引とは、金の売買を行う取引所での取引を指します。金は換金性の高い資産であり、世界各国に金取引専用の市場が存在しています。
主に取引されるのはインゴット(ゴールドバーや延べ棒)ですが、実際には喜平ネックレスやコインをペンダントにしたものなど、地金であれば換金も可能です。
金取引が行われる主要な市場には、ロンドン、ニューヨーク、スイスのチューリッヒ、香港の4つがあり、これらは世界の金取引において重要な役割を果たしています。ニューヨーク市場が最も取引規模が大きい一方で、ロンドン市場は最も歴史ある市場です。
ロンドン市場の歴史と金価格決定の仕組み
1571年に設立された王立取引所に起源を持つロンドン市場では、1919年9月12日から5社のディーラーがロスチャイルド社の「黄金の間」で金価格を決定してきました。
現在も、この価格決定方式は続いており、1日に2回、金価格を決定する「フィキシングプライス」が発表されています。ロスチャイルド社は撤退しましたが、今なお継続しており、金価格の基準として広く認識されています。
世界中で取引される金価格は、主にニューヨーク市場で発表されますが、この価格を大きく左右するのがロンドン市場です。これにより、ロンドン市場は世界的な金価格において重要な役割を担っています。
日本の金取引所と現物取引・先物取引の違い
日本にも金取引所が存在し、代表的なものが「東京商品取引所(TOCOM)」です。TOCOMは金専門の市場ではありませんが、金の取引量が大きく、世界三大市場の一つとしても認識されています。取引には「現物取引」と「先物取引」の2種類があります。
現物取引では、金地金の価値を売り手と買い手で決定し、現金引換えで取引が行われます。一方、先物取引は、一定期間後に金と代金の取引を約束する取引です。
また、金地金の取引には、500グラム未満の取引で手数料がかかる場合があるため、注意が必要です。ジュエリーに関しては、宝石がセッティングされている金ジュエリーは取引所で扱えないことが多いため、専門の買取店での相談をおすすめします。
まとめ
金は、その稀有な希少価値によって、特別な存在であり続けてきました。装飾品や資産としての用途にとどまらず、医療や電子機器など幅広い分野で活用されるなど、金の用途は意外に多岐にわたります。
その魅力は人々の心をときに高揚させ、またときに困惑させながら、今もなお魅了し続けています。