錬金術の起源
錬金術の起源は古代エジプトや古代ギリシアにあります。錬金術は、ヘレニズム文化の中心であった紀元前のエジプトのアレクサンドリアからイスラム世界に伝わり発展しました。アリストテレスら古代ギリシアの哲学者の物質観は、中世アラビアの錬金術に多大な影響をもたらし、12世紀にはイスラム錬金術がラテン語訳されてヨーロッパで盛んに研究されるようになりました。錬金術の試行の過程で、硫酸・硝酸・塩酸など、現在の化学薬品の多くが発見され、同時に多くの実験道具も発明されたのです。17世紀後半になると錬金術師でもあった化学者のロバート・ボイルが四元素説を否定したことで、アントワーヌ・ラヴォアジェが33の元素や「質量保存の法則」を発表することになり、これらの成果は現在の化学に引き継がれています。歴史学者フランシス・イェイツは16世紀の錬金術が17世紀の自然科学を生み出した、とも話しています。
錬金術で金を作ることは可能か?
和歌山大学システム工学部精密物質学科の篠塚雄三氏によると、「錬金術は不老長寿の薬とともに、歴史が始まってからの人類の夢である。錬金術は物理や化学の進歩をうながし、不老長寿の薬は医学の発達につながった。不老長寿の薬を作ることはできるか、あるいは見いだすことはできるかどうかは現在のところ不明であるが、錬金術のほうは残念ながら不可能であることは明らかである。」と述べています。この宇宙のあらゆる物質は、百種類あまりの原子の組み合わせからできており、たとえば金は金原子、鉄は鉄原子、食塩はナトリウム原子と塩素原子からできています。したがって、いかなる化学反応をもってしても鉄原子を金原子に変えることはできない(理論上は可能であるが現実的に不可能)とされています。
ダイヤモンドで錬金術
原子をそのまま作り変えることは不可能であるが、たった百種類あまりの原子の組み合わせから、様々の物質が構成され、それらがそれぞれ固有の性質をもち、この変化に富んだ宇宙を作っていることは、興味深いことといえます。ということは、原子の新たな組み合わせを考えることで新しい物質を合成するという、形を変えた「錬金術」は可能となるのではないでしょうか。今回はその中でダイヤモンドについて考えていこうと思います。
物質は温度によって固体、液体、気体の3形態をとり、低温では固体状態をとるのが普通である。固体状態では原子はなるべく近づき合って結晶構造を作っている。結晶構造の特徴とは、一言でいえば並進対称性、すなわち原子の規則正しい配列といえます。ダイヤモンドの場合は簡単にいうなら炭素原子の集合体です。しかし同じ炭素原子の集合体として、鉛筆の芯の材料となる黒鉛も存在している。世界一硬いといわれるダイヤモンドと人の手でも簡単に折れてしまう黒鉛が同じ炭素からできているのは不思議な感じがしますよね。これは結合の仕方の違いによりそうなっています。詳細な説明は省きますが簡単にいうと遙か昔に地球の内部の非常に高圧のところで冷えて固まって炭素がそのままの形で地上付近まで様々な条件が重なって運ばれた時のみダイヤモンドという形で私たちの前に姿を見せるのです。
つまり、黒鉛に圧力をかければダイヤモンドができるということになり、実際のこのようにして人工ダイヤモンドを作ることは可能です。これこそ現代の錬金術であるといえるのではないだろうか。しかし、実際は高圧を作るのがむずかしく、今のところ小さい結晶しかできないため宝飾品としてはメモリアルダイヤなどの少ない用途でのみ活用されています。もし将来、安価に大型の人工ダイヤモンドを作り出す技術を開発することに成功すれば、それこそ「金」を手に入れることになりそうだが、貴重品としてのダイヤモンドの価値はなくなってしまい、ダイヤモンド・シンジケートから命をねらわれることにもなりかねないですね。
まとめ
このように金やダイヤモンドを生み出すことによる錬金術は現実的ではないとわかります。ただ、こうした研究はエネルギー分野の発展には大きく貢献しています。金を作るよりもっと価値のあるものが発見されたりしているので、無駄にはなっていないのです。しかし少なくとも、一般の私たちは、鉛を金に変える方法を考えるよりも、人生を金のような価値のあるものに変える努力をする方が賢明なようですね。