腕時計の自動巻きとは

まずは、自動巻き時計のメカニズムを見てみましょう。手巻き式時計の仕組みとどのような違いがあるのでしょうか。
自動巻き時計の仕組み
名前の通り、自動巻き時計は肌に身に着けるだけで針が動きます。
身に着けたときの腕の動きに合わせて機構内部のローターが回転し、自動でゼンマイを巻き上げて針を動かしています。手巻き式のようにリューズを手で回してゼンマイを巻き上げる必要がなく、電池も消費しないため、使い勝手が非常によいです。
基本的に着用していると動きますので、別名「オートマチック」と呼ばれることもあります。
自動巻き時計の歴史

自動巻き時計は愛用者が非常に多い腕時計ですが、誕生したのはどのくらい前なのでしょうか。現代までアップデートを続けてきた自動巻き時計の歴史についてご紹介します。
18世紀に世界初の自動巻き式懐中時計が誕生
自動巻きの歴史は、18世紀に時計技師であるアブラアン=ルイ・ペルレが開発した自動巻き式懐中時計がはじまりといわれています。当時は、人が持ち運ぶ時の上下の振動によってゼンマイを自動で巻き上げる仕組みでした。
しかし、懐中時計は衣服のポケットや懐に入れることが一般的であったため、現代のような普及には至りませんでした。人々が自動巻きの魅力を実感するのは、腕時計の普及まで待つことになります。
ローターを利用した自動巻き機構が開発される
20世紀に入ると腕時計が一般家庭に普及し始め、利便性の高さから、時計メーカーによる自動巻き技術の開発が加速します。
その中で、世界初の自動巻き腕時計が登場したのは1920年代です。時計職人のジョン・ハーウッドが半回転式ローターでゼンマイ巻き上げを行う機構を開発し、スイスの時計メーカーによって商品化されました。
この機構は特許を取得しており、「自動巻き技術の原型」ともいわれているようです。
ロレックスが360度回転ローターを採用した自動巻き時計を発表
1931年には、ロレックスがジョン・ハーウッドの自動巻き技術を応用し、ローターが360度回転する自動巻き時計を発表しました。
この技術はロレックスの三大機構といわれる「パーペチュアル」と呼ばれるもので、両方向に回転することで巻き上げ効率を高めたものです。この機構は、同年に発表され、今も展開している腕時計「オイスター パーペチュアル」などに搭載されています。
現代ではこの機構をベースに、世界中のメーカーが自動巻き時計の開発に取り組んでいます。
自動巻き腕時計の魅力

多くの高級時計ブランドが開発している自動巻き時計は、どのような部分が魅力的なのでしょうか。利便性やデザインの視点から確認してみましょう。
手動で巻く必要がない
自動巻きの時計は、手動で巻く必要がありません。
手巻き式の時計は、基本的に1日1回はリューズを回せなくなるまでゼンマイを巻く必要があります。対して自動巻きは、腕の動きによって自動でゼンマイを巻き上げるためリューズを巻く手間が省くことができ、手巻き式よりも使いやすいです。
着用していない時間が長いと自動巻きでもリューズでゼンマイを巻く必要がありますが、20回から30回程度回すと針が動きます。ワインディングマシーンを活用すれば、巻く時間を省くことが可能です。
近年は、巻き上げ残量を表示する「パワーリザーブインジケーター」が採用されている腕時計が開発され、ますます使い勝手がよくなっています。
精度が高い
手巻き式より精度が安定する点も自動巻きのメリットです。
手巻き式は、リューズでしっかりゼンマイを巻いても緩んでいきますので、やがて時間のズレが大きくなり、精度が不安定になる可能性があります。一方、自動巻きは、リューズを巻いた後も着用すれば腕の動きで自動でゼンマイが巻き上がり、安定しやすいです。
一般的には、1日10時間ほど着用すれば精度が安定するといわれています。
選択肢が多い
業界的にも現在は自動巻きのムーブメントが搭載された腕時計が主流になっており、手巻き式よりも選択肢が多い状況です。
多くのブランドが自動巻きの機械式時計を複数展開しており、価格は手ごろなものから宝石や金素材が使われた高級なものと、種類はさまざまです。
時計に搭載している機能も多岐に渡るため、スポーツや旅行など、着用したいシーンに合わせて自動巻き時計を選ぶことができます。
自動巻き腕時計のデメリット

使い勝手の良さやデザインの種類の豊富さが自動巻き時計の魅力ですが、購入すると不満点も見えてきます。デメリットと感じる部分は、以下のような点が多いようです。
手巻きと比較し重厚感がある
自動巻きの時計は手巻き式よりも重厚感があります。
手巻き式の機構はシンプルであるためムーブメントを薄くすることができ、ドレスウォッチとして展開されることが多いです。一方で自動巻きは、ムーブメントにローターなどの機構が足されるため厚くなりやすく、重たくなりやすい傾向があります。
ただし、近年は技術の進歩により、手巻き式のような薄型へと改良した自動巻きモデルが登場しています。試着で重量が気になるのであれば、こちらを選ぶのがおすすめです。
メンテナンス費用が高い
自動巻きの腕時計にかかるメンテナンス費用は、手巻き式と比べて高い傾向にあります。
ムーブメントの構造が複雑なため部品点数が多くあり、特に海外ブランドは費用が高額になりがちです。故障のリスクも高く、メンテナンスにかける費用負担を想定したうえで購入を検討する必要があります。
ちなみにメンテナンスの実施頻度は、およそ3年から5年に一度が目安です。手間とコストはかかりますが、長く愛用するためにも欠かさず行いましょう。
長期間放っておくと止まる
電池切れの心配がない自動巻き時計ですが、長期間放置すると、さすがに止まってしまいます。
機構内部にある部品の摩耗や部品にコーティングされた潤滑油の経年劣化によって精度が落ちていき、そのまま放置すると故障していたということも少なくありません。この状態で修理依頼を申し込めば、メンテナンス費用が予想以上に膨らみます。
定期的なメンテナンスを行うよう心がけましょう。
自動巻き腕時計の注意点

自動巻き腕時計は精密機器であり、長く使用するには取り扱いに注意が必要です。故障リスクを減らすためにも、以下の3点だけでも気に留めておきましょう。
磁気を発する製品の近くに置かない
スマートフォンやワイヤレスイヤホンなど、私たちの周りには磁気製品が多くあります。この製品の近くに自動巻き時計を放置すると、精度に悪影響を及ぼすことがあるのです。
自動巻きのムーブメントは細かな金属部品によって構成されており、磁気を帯びやすいという性質があります。金属に磁気が帯びるとゼンマイ同士が引き合い、時計の精度が狂ってしまうのです。
特に、時計の心臓部ともいえる「テンプ」と呼ばれる部品はその影響を受けやすく、放置すると精密な動きができなくなることがあります。
時間を正確に刻めなくなったら、修理業者に磁気抜きをお願いしましょう。
衝撃や振動をできるだけ与えない
自動巻き時計は細かな金属部品によって構成されているため、衝撃や振動を与えると破損してしまいます。
現在、多くのブランドが品質管理を徹底しており、堅牢性の高い時計を販売しています。しかし、自動巻き時計は細かなパーツが多い複雑構造のため、誤って落としてしまうと内部の歯車が狂ったり、風防が破損する可能性があるのです。
スポーツシーンなどで体を動かす際は、時計を外すようにしましょう。
水分や高温多湿を避け保管する
自動巻き時計に限ったことではありませんが、水気や湿度の高い場所に保管すると劣化を早めるリスクが高まります。内部の部品に錆びを引き起こして動きが悪化したり、外観が変色する恐れがあるため、負担のかからない場所へ保管することが重要です。
防水機能のある自動巻き腕時計も多く販売されていますが、対応できない深さまで浸水させてしまうと悪化してしまいます。取り扱いには気をつけましょう。
保管場所としておすすめできるのは、ワインディングマシーンへの収納です。ゼンマイを自動で巻き上げることができ、湿気をある程度抑えられます。磁気帯び対策もされていますので、お悩みの方は購入してみてはいかがでしょうか。
自動巻き時計のおすすめモデル

多くのブランドで製造されている自動巻き時計ですが、その中でも特におすすめのモデルをご紹介します。どのモデルも耐久性や精度が高く、シーンを選ばずに着用できます。
ロレックス サブマリーナーデイト Ref.126610LN
サブマリーナーは、ロレックスの中でも定番のスポーツウォッチです。
Ref.126610LNは2020年に登場した現行モデルで、自動巻きムーブメント「Cal.3235」が搭載されています。ゼンマイを完全に巻き上げた状態であれば、着用しなくても最大70時間まで自動的に動き続けることが可能です。
水深300mまでの水圧に耐えることができ、シーンに左右されないブラックベゼルとステンレススチールの王道デザインは、多くのユーザーから支持されています。
オメガ シーマスター ダイバー 300M Ref.210.30.42.20.01.001
王道の黒いセラミックベゼルが特徴的な、オメガのダイバーズウォッチです。
マスタークロノメーター認定を受けた自動巻きムーブメント「Cal.8800」が搭載されており、摩擦を軽減して精度と耐久性を向上させた機構「コーアクシャル エスケープメント」が組み込まれています。非常に信頼性の高いムーブメントといえるでしょう。
メンテナンスもおよそ6年から8年に一回と、修理費用が抑えられる点も魅力的です。
グランドセイコー ヘリテージコレクション SBGH301
日本国内で生産を行っているグランドセイコーのヘリテージコレクション SBGH301は、クラシカルで優雅な雰囲気があります。
山肌のようなデザインが特徴的なムーブメント「Cal.9S85」は36,000振動/時(10振動/秒)を可能にしており、旧モデルよりもスムーズで精度の高い動きを実現しています。衝撃や磁力などの外乱にも強い、信頼性の高いモデルです。
自動巻き時計に関するよくあるQ&A

最後に、自動巻き時計に関する質問をまとめてみました。主に、自動巻きの仕組みやムーブメントに関するものです。
自動巻き時計とは何ですか?
自動巻き時計とは、着用中に自動で針が動く機械式腕時計のことです。
機械式腕時計には、1日1回、リューズを回して動力源であるゼンマイを巻き上げる手巻き式がありますが、自動巻きは基本的にその必要がありません。腕の動きによってゼンマイを自動で巻き上げるため、リューズを回す手間がありません。
電池も使用する必要がないため、利便性が高い点も魅力的です。
現在の時計業界では自動巻き時計が主流となっており、ロレックスなど多くの有名ブランドで販売されています。
腕時計のムーブメントの種類は?
ムーブメントとは、時計の針を動かす機械部分のことです。自動巻きを含めて4種類あり、時計業界ではムーブメントの型番名を「キャリバー(またはCal.)+数字」で表記されているのが一般的です。
簡単にですが、特徴を表にまとめてみましたのでご覧ください。
| ムーブメント | 特徴 |
|---|---|
| 自動巻き
(機械式) |
ムーブメントにローターが搭載されており、着用時に腕の振り方によってゼンマイを巻き上げます。 |
| 手巻き
(機械式) |
リューズを回してゼンマイをしっかり巻き上げることで針が動きます。 ゼンマイが緩むと止まるため、朝に1度リューズを回すなど、定期的にゼンマイを巻き上げる必要があります。 |
| クォーツ式 |
ボタン電池を動力源とする腕時計です。水晶のパーツに電圧をかけ、振動させることで針を動かします。機械式よりも精度が高いですが、電池が動力のため寿命が短く、修理も困難であることが欠点です。 |
| スプリングドライブ |
セイコーが自社開発したムーブメントです。機械式のようにゼンマイが動力となっていますが、クォーツ式に匹敵するほどの精度を誇ります。 ハイブランドである「グランドセイコー」でも採用されています。 |
まとめ
機械式腕時計の1つである自動巻き時計は、腕の動きに合わせてゼンマイを自動的に巻き上げる仕組みです。基本的にリューズを回す必要がないため利便性が非常に高く、現在は多くの高級ブランドで複数のモデルを展開しています。丁寧に扱えば半永久的に使えますので、アフターサービスやメンテナンス費用などブランドの特徴を理解し、長く愛用できる腕時計を選びましょう。


