「持たない暮らし」における一点豪華主義の考え方 | 函館山の手店
―少なく、しかし上質に暮らすという選択―
近年、ミニマリズムや断捨離といった価値観が浸透し、多くの人が「モノを持たない暮らし」に目を向けるようになりました。必要最小限の持ち物で暮らしを整えるというこの思想は、効率的でストレスの少ないライフスタイルを実現できると支持されています。
一方で、そんな「持たない暮らし」の中に、あえて“ひとつだけ贅沢なもの”を持つという考え方=一点豪華主義が注目されています。それは、たくさん持つのではなく、自分にとって価値のあるものを厳選して所有するという、新しい豊かさのかたちでもあります。
本記事では、「持たない暮らし」と「一点豪華主義」がいかに両立しうるかを掘り下げながら、その思想的背景と実践のポイントについて考えていきます。
1. モノを減らすことの意味:所有から選択へ
かつて「たくさん持つこと」は、豊かさの象徴でした。クローゼットに服が溢れ、家電もインテリアも最新のものでそろえることが理想とされていた時代。しかし、過剰な所有がストレスや浪費を生むことに気づいた現代人は、「持ちすぎないこと」の心地よさに目覚め始めています。
持たない暮らしは、所有することを目的とするのではなく、“選ぶこと”に重きを置く暮らし方です。つまり、自分にとって本当に必要で、心から満足できるモノだけを手元に残す。それは決して貧しい選択ではなく、むしろ意識的に“豊かさ”を選び取る行為なのです。
2. 一点豪華主義とは何か?──質への回帰
一点豪華主義とは、名前の通り「たくさんの安価なものを持つのではなく、ひとつの上質なものに投資する」ライフスタイルです。
たとえば以下のような選択があります:
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毎日履く靴を、手入れしながら10年履ける本革の一足にする
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毎日使うボールペンを、万年筆に変えて長く愛用する
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バッグはひとつだけ、高品質なブランドを選びメンテナンスしながら使う
ここでの“豪華”は、金額的な意味だけでなく、素材の良さ、職人技、デザインの美しさ、感情的な満足感といった、あらゆる要素を含みます。つまり、「安いからたくさん買う」のではなく、「納得できるものに対して対価を支払う」という姿勢が基本にあるのです。
3. 「持たない暮らし」と「一点豪華」は矛盾しない
一見、ミニマルな生活と豪華な所有は矛盾しているように思えます。しかし、実はその本質には共通する哲学があります。
それは「モノに振り回されず、自分で選び、自分で満足を得る」という自律的な姿勢です。
ただモノを減らすのではなく、選び抜いたモノを丁寧に使い続けることで、暮らしの質を高めていく。その延長にあるのが“一点豪華主義”であり、それは決して見せびらかすためではなく、自分の内面の豊かさを満たすための選択なのです。
この考え方は、北欧の「ヒュッゲ」や日本の「侘び寂び」にも通じる、精神的な充足を重視する文化的価値観と深くつながっています。
4. 一点豪華主義のメリットと実践ポイント
■ 本当に好きなものに囲まれる心地よさ
たくさんあるけれどどれも妥協して買ったものより、ひとつしかないけれど心から愛せるモノに囲まれる方が、精神的な充足感は圧倒的に高いとされています。
■ 所有コスト・管理の最適化
高品質なモノは壊れにくく、修理しながら長く使えるため、長期的に見ればコストパフォーマンスが高いという利点もあります。
■ 消費への意識が変わる
「何となく買う」という衝動が減り、本当に必要なものだけを選ぶ習慣が身につきます。これは環境にとっても優しい行動であり、サステナブルな生活スタイルにもつながります。
5. ブランド品も“一点豪華”の選択肢に
ブランド品は、まさに一点豪華主義の対象となり得る存在です。ただしそれは、見栄や他人へのアピールのためではなく、自分の価値観に深く響くものかどうかが大切です。
・10年後も好きでいられるデザインか?
・素材や作りは信頼できるか?
・使い続けることで味わいや経年変化を楽しめるか?
そうした問いを重ねていく中で、“本当に必要なモノ”としてブランド品を迎えるのであれば、それは「モノを持たない暮らし」と完全に調和する選択といえるでしょう。
まとめ:「少なく、しかし上質に生きる」という価値観
「持たない暮らし」と「一点豪華主義」は、モノを削ぎ落とすだけのミニマリズムではありません。むしろ、“数”ではなく“質”を重視し、自分が本当に愛せるモノとともに暮らすという豊かさの再定義です。
情報やモノが溢れる現代において、本当に価値あるものを見極める目を持ち、自分の人生に意味のあるモノだけを選ぶ。
それは、とても丁寧で、誠実で、そして自分自身を大切にする暮らし方なのかもしれません。
















