ブランド品を持つ理由:ステータスから自己表現へ | 函館山の手店
―時代とともに変わるラグジュアリーの意味―
高級ブランド品は、かつて「裕福さ」や「社会的地位」を象徴するステータスの証として捉えられてきました。バッグ、時計、ジュエリー——それらは単なる「所有物」ではなく、「自分の価値を他者に示す道具」でもあったのです。
しかし現代において、ブランド品を持つ意味は大きく変化しています。大量消費の終焉、サステナビリティへの意識の高まり、そして何より「自分らしさ」を重視する価値観の広がりにより、ブランドは“見せつけるもの”から“表現するもの”へと進化しています。
本記事では、ブランド品が果たす役割の変遷と、今後求められる「ラグジュアリーの新しいかたち」について考察します。
1. ステータスとしてのブランド:過去の基準
20世紀後半〜2000年代初頭まで、ブランド品は「成功の証」として多くの人に認識されていました。エルメスのバーキンやロレックスのデイトナなど、誰が見ても高価だと分かるアイテムを持つことが、社会的評価や経済的余裕を示す象徴だったのです。
特に日本では、バブル期を中心に「皆が同じ憧れのブランドを持つ」現象が顕著でした。そこには「選ばれたものを持つ安心感」「人と同じであることの価値」が背景にありました。
しかし、SNSの登場と消費行動の個人化によって、この価値観は少しずつ揺らぎ始めます。
2. 自己表現としてのブランド:いまの基準
現代の消費者、特にZ世代やミレニアル世代にとって、ブランド品は単なるステータスではなく、**「自分らしさ」や「価値観の投影」**の手段になっています。
たとえば:
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シャネルのヴィンテージバッグを「古着と合わせて再解釈」
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ロレックスではなく、あえて無名なクラフト時計を選ぶ
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ジュエリーをジェンダーレスに自由に着けこなす
こうした動きの中で、ブランドは「ブランド名で語られる」ものではなく、「その背景にある思想や哲学で選ばれる」ものへと変化しています。
「なぜそのブランドを選んだのか?」が重要視される時代なのです。
3. ブランド選びの多様化と新たな価値軸
現代の消費者は、以下のような多面的な基準でブランド品を選ぶようになっています。
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サステナビリティへの取り組み(例:ステラ・マッカートニーやパタゴニア)
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ブランドの歴史や職人技術(例:エルメス、グランドセイコー)
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アート性や独自性(例:ロエベ、マルジェラ)
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リセールバリュー(投資対象としての選択)
「見せびらかすために買う」のではなく、「共感できるから選ぶ」「長く使えるから投資する」といった、自律的な動機によるブランド選びが浸透しています。
4. 中古市場の拡大とブランド価値の再構築
この価値観の変化は、中古ブランド市場の拡大にも大きく影響しています。ヴィンテージ・シャネルやルイヴィトンの旧モデルが再評価されているように、一過性のトレンドではなく、時代を超えた“意味”を持つアイテムが支持されているのです。
また、サステナブルな観点からも、中古品を選ぶことが「環境に優しいライフスタイルの一部」として、社会的にもポジティブな意味を持ちつつあります。
5. ブランドの役割は「個のストーリー」に寄り添うことへ
今後、ブランドが消費者に選ばれ続けるには、単なる“高級”や“歴史”だけでは不十分です。消費者一人ひとりの「物語」や「価値観」に寄り添い、パーソナルな共感軸を提供できるかが鍵になります。
ブランド品は、「人から見られるため」から「自分とつながるため」のツールへ。
それはまさに、“ブランドが語る”から“自分が語らせる”ラグジュアリーへと移行しているのです。
結論:ブランドは、いま“意味”を買う時代に
ブランド品を持つ理由は、もはや「見栄」や「見せびらかし」だけではありません。私たちはそこに、「背景」「共感」「アイデンティティ」といった**深い“意味”**を見出すようになりました。
それは、ブランドが提供する“モノ”の価値ではなく、“物語”や“共鳴”の価値が求められている証です。
自分は何に共感するのか。
どんな価値観を身につけ、まといたいのか。
それを映し出す鏡として、ブランド品はこれからも、私たちの人生に寄り添い続けていくでしょう。
















