時計のサブスクとリユース市場の可能性 | 函館山の手店
~「所有」から「体験」へ、変わりゆく高級時計の楽しみ方~
高級時計は長らく「一生モノの買い物」として語られてきた。
ロレックスやオメガ、パテック フィリップといった一流ブランドの腕時計は、所有することそのものが一種のステータスであり、文化でもあった。
しかし近年、その前提が少しずつ変わり始めている。
「モノを買う」から「サービスを利用する」という新しい消費スタイル――つまりサブスクリプション(定額制)モデルが、高級時計の世界にも広がってきているのだ。
この動きは、同時にリユース市場の活性化とも密接に関わっている。
本記事では、時計のサブスクサービスの仕組みとその利点、そしてそれがもたらすリユース市場への波及効果について考察する。
時計のサブスクとは?:高級時計を“借りて楽しむ”選択肢
サブスクリプション型の時計サービスとは、月額または年額の定額料金を支払うことで、高級時計を一定期間レンタルして楽しめる仕組みである。
日本国内では以下のようなサービスが展開されている:
-
KARITOKE(カリトケ):ロレックス、オメガ、タグ・ホイヤーなどを月額4,000円〜で提供
-
トケマッチ:最大3本まで同時レンタル可能なサービス
-
BRAND PITやモノカリなどの総合ブランドサブスク業者
これにより、従来では高額すぎて手が届かなかった高級時計を、気軽に日常生活に取り入れることが可能になった。
なぜ今「借りる」時計が選ばれるのか?
時計のサブスクが注目を集めている背景には、所有への価値観の変化と経済合理性がある。
● 若年層の“体験重視”志向
Z世代やミレニアル世代では、「所有するより、複数の体験をしたい」という意識が強まっている。
そのため、複数のブランド・モデルを試しながら“自分に合う一本”を探したいというニーズと、サブスクは非常に相性が良い。
● 高級時計の価格高騰
ロレックスやパテック フィリップなどの価格は近年で大幅に上昇しており、一括購入のハードルが年々高くなっている。
その中で、月額数千円〜で楽しめる選択肢は、非常に魅力的に映る。
● メンテナンス・保管不要という手軽さ
高級時計はオーバーホールや保管に気を遣うアイテムである。
しかし、サブスクでは定期的な整備やクリーニングが事業者側で行われるため、気軽に着用できるという利点がある。
サブスクとリユース市場の相互強化
興味深いのは、サブスクサービスがリユース市場を間接的に支えているという点だ。
● 使用後の商品は「良質な中古」として再販売
サブスクサービスで使われた時計は、使用期間終了後、中古品として市場に流通する。
これにより、コンディションの良い高級時計が安定的に供給されることになり、リユース市場の品揃えが充実する。
● 査定基準・整備基準が標準化される
サブスク事業者は時計のメンテナンスや真贋確認を徹底して行っており、プロによる整備済みの時計が市場に再流通することで、リユース品への信頼性も高まっている。
● “一度使ってから買う”という新たな消費導線
ユーザーはサブスクを通して気に入ったモデルを知り、「やっぱり欲しい」と思えば中古市場で購入するという流れが生まれている。
これは、リユース市場にとって極めて効果的な集客導線となる。
時計業界のサステナビリティにも貢献
サブスクとリユースの連動は、**時計産業の持続可能性(サステナビリティ)**という観点でも意義がある。
-
廃棄される時計を減らし、資源の有効活用につながる
-
長く使い続ける前提のメンテナンス文化が浸透し、修理・保存技術の継承を促進
-
“消費から循環へ”という社会の価値観とも合致
これにより、時計はただのファッションアイテムから、持続可能な資産として再定義されつつあるのだ。
今後の展望と課題
時計サブスクの今後の展望としては以下が挙げられる:
-
より多様なブランドやビンテージモデルの取り扱い拡大
-
NFTやブロックチェーンと連動した所有履歴の管理
-
サブスク会員向けの特別販売や限定モデル体験の導入
ただし、課題も存在する:
-
長期利用時の価格メリットが薄れる可能性
-
紛失・破損リスクへの不安
-
所有満足感の欠如(“いつかは自分のものにしたい”欲求)
これらのバランスをどう取っていくかが、サブスク型サービスの今後を左右するポイントとなるだろう。
まとめ:「所有しない贅沢」が時計の楽しみ方を変える
かつて「一度買ったら一生もの」と言われた高級時計。
今、その価値は「誰かが使い続ける」ことでより持続的なものになっている。
サブスクで気軽に楽しみ、リユースで価値を引き継ぐ――
これはモノの価値を“単なる所有”から“社会的な循環”へと拡張する、新たな時計文化の兆しである。
時計を着けることは、ただの自己表現ではなく、新しい消費のかたちを選ぶ行為なのかもしれない。
その選択肢が今、かつてないほど広がっている。
















