デイサービスは市場規模が大きく、施設運営による売上に加えて、国から介護報酬を受け取ることができるため、非常に魅力的なビジネスと言えます。
また、地域貢献もできることから、デイサービスの開業を検討している方も多いことでしょう。
しかし、デイサービスで安定して利益をあげることは難しいという考えが一般的です。その証拠に、高齢化社会が進んでいるにもかかわらず、赤字に陥っている施設も少なくありません。
そこで、この記事では、デイサービスの黒字化を目指すためのポイントや、収益を上げるための仕組み作りについて詳しく解説します。
目次
デイサービスで儲かる仕組みを作るのは難しい?
デイサービスで利益を上げる仕組みを作ることが難しいとされる理由には、以下の点が挙げられます。
・赤字経営の施設が多い
・実際に倒産している施設が多い
確かに、デイサービスの市場規模は1兆2,000億円と非常に大きいものの、人手不足をはじめとした多くの問題を解決しなければならない業界です。
ここでは、デイサービスの定義や市場規模に加え、経営状況や倒産件数について詳しくご紹介します。
デイサービスの定義
デイサービス(通所介護)とは、利用者ができる限り自宅で自立した日常生活を送れるよう支援するサービスです。主な目的として、利用者の孤立感の解消や心身機能の維持、家族の介護負担軽減が挙げられます。
デイサービスを運営するためには厚生労働省が定めた基準を満たす必要があります。公式ホームページに掲載されている「【資料4】複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」には以下の基準が記載されています。
■人員基準
生活相談員
事業所ごとにサービス提供時間に応じて専従で1人以上
看護職員
単位ごとに専従で1人以上
介護職員
(1)単位ごとにサービス提供時間に応じて専従で次の人数以上
ア 利用者の数が15人まで 1人以上
イ 利用者の数が15人を超す場合 アの数に利用者の人数が1人増すごとに0.2人を加えた人数以上
(2)単位ごとに常時1人配置されること
(3)(1)の人数および(2)の条件を満たす場合は、当該事業所のほかの単位における介護職員として従事することができる
機能訓練指導員
1人以上
※補足
生活相談員または介護職員のうち1人以上は常勤
定員10人以下の地域密着型通所介護事業所の場合は看護職員または介護職員のいずれか1人の配置で可
■設備基準
食堂・機能訓練室
それぞれ必要な面積を有するものとし、その合計した面積が利用定員×3.0平方メートル以上
相談室
相談の内容が漏えいしないよう配慮されている
出典:「第234回社会保障審議会介護給付費分科会資料」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36674.html)より抜粋(2025年1月20日に利用)
デイサービスの市場規模
介護業界全体は右肩上がりで成長していますが、デイサービス市場に限定すると、平成27年の約1兆4,887億円をピークに、ここ数年は1兆2,000億円前後で横ばいの状態が続いています。それでも、1兆2,000億円という規模は依然として非常に大きく、デイサービス市場が巨大な市場であることは明らかです。
デイサービス経営の状況
デイサービスの市場規模は堅調に推移していますが、通所介護施設は半数近くが赤字になっているといわれています。
また、デイサービスは「地域密着型」、「通常規模型」、「大規模型(1)」、「大規模型(2)」の4つに分類されます。独立行政法人福祉医療機構は、これらの事業の経営状況を調査し、赤字の割合について次のように言及しています。
“
赤字事業所割合は、通常規模型が52.3%と半数を超えており、もっとも低い大規模型(Ⅰ)と比べて、20ポイント近い差がみられる。
出典:平内雄真. “2022 年度 通所介護の経営状況について”. 独立行政法人福祉医療機構 | WAM. (2023-2-28). https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/240228_No.012.pdf, (参照:2025年1月20日)
”
上記の記述から、デイサービスは需要が高い一方で、赤字の割合が最低でも30%を超えており、経営が厳しい施設が多いことがわかります。特に、利用率が低く人員配置が過剰な場合は、利用率の改善や適切な人員配置への対応が求められます。
デイサービスの倒産数
デイサービスの倒産件数は年々増加しており、2024年には過去2番目に多い56件に達しています。
高齢化社会が進行する中で、なぜこのような状況になっているのでしょうか。東京商工リサーチが実施した2024年の「老人福祉・介護事業」に関する倒産調査によると、以下のような結果が示されています。
“
2024年の介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産が、過去最多の172件(前年比40.9%増)に達したことがわかった。これまで最多だった2022年の143件を29件上回った。ヘルパー不足や集合住宅型との競合、基本報酬のマイナス改定などが影響した「訪問介護」が過去最多の81件、多様化したニーズに対応できなかった「デイサービス」も過去2番目の56件、有料老人ホームも過去最多の18件と、いずれも増加した。
出典:東京商工リサーチ. “2024年「介護事業者」倒産が過去最多の172件 「訪問介護」が急増、小規模事業者の淘汰加速 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ”. 東京商工リサーチ. (2025-1-9). https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200835_1527.html, (参照:2025年1月20日)
”
確かに、高齢化社会の進行により介護業界の需要は拡大しています。しかし、介護業界の人手不足は深刻な社会問題であり、需要があったとしても働き手が集まらなければ倒産に追い込まれることになります。
コロナ禍で悪化した経営を立て直せず、物価の高騰をはじめとした厳しい環境の中でニーズの充足や人材確保が難しい事業者の倒産は、2025年も増加する可能性が十分に考えられます。
デイサービスで儲かる仕組みを作るための要素
デイサービスで利益を上げる仕組みを作るための重要な要素として、以下の3つが挙げられます。
・業務効率化
・労働環境の改善
・人材の育成
確かに、デイサービスは赤字や倒産が多い業界ではありますが、ポイントをしっかりと押さえて運営することで、利益を上げることは十分に可能です。ここでは、これら3つの要素について詳しく解説します。
業務効率化
業務の効率化において欠かせないのは、IT技術の活用です。
クラウドサービスを活用することで、勤怠管理の効率化や、システムを通じて職員間で利用者のデータをリアルタイムで共有することが可能になります。
IT技術を活用することで、少ない労力と時間でより大きな成果をあげることができます。その結果、費用の削減や職員の負担軽減といった効果が期待できるでしょう。
労働環境改善
デイサービスの開業において、労働環境の改善は非常に重要です。
まず、労働環境を良好にすることで、職員の離職率を下げることができます。また、「働きやすい職場」という評判が広まれば、恒久的に新たな職員を雇用できるようになるでしょう。
そのためには、過剰な会議や朝礼、研修、残業などを削減するほか、ITツールを導入して職員の負担を軽減することも求められます。
デイサービスの需要は増加しているため、労働環境を改善することで、安定した収益を得ることも可能になります。
人材の育成
デイサービスを黒字化させるためには、人材育成を行い、サービスの質を向上させることが非常に重要です。
教育制度をしっかりと整えることで、職場環境が改善され、結果的に離職率の低下につながります。
例えば、長期勤務しているスタッフや今後運営者になる可能性がある社員に対して、加算要件に必要な資格取得を支援することも1つの方法です。資格を取得した従業員には資格手当を給与に追加することで、仕事へのモチベーションが向上し、職場に定着しやすくなります。
このように、人材教育に力を入れることで従業員の満足度を高め、離職率の低下と安定した運営の実現が可能となります。
デイサービスで儲かる仕組みを作る方法5選
デイサービスで利益を上げる仕組みを作る方法として、以下の5つが挙げられます。
・定員の増加
・稼働率の向上
・1人当たりの介護報酬単価の増加
・業務の最大効率化
・利用回数よりも利用者数の増加を優先
ここでは、これら5つの方法について詳しく解説します。
(1)定員の増加
デイサービスの収益を上げるためには、まず定員を増やすことが効果的な方法です。
例えば、定員が10人の小規模な施設の場合、15人や20人に増やすことで、売上がその分増加します。
また、定員が多いと、ケアマネージャーからの緊急受入依頼にも柔軟に対応しやすくなります。頻繁にケアマネージャーの依頼を受け入れることで、施設の評価が高まり、新たなチャンスが広がります。
さらに、利用者が増えることで、口コミでの評判も広まりやすくなるというメリットもあります。ただし、口コミだけで知名度を上げるのは限界があるため、積極的なプロモーション活動も重要です。
このように、定員を増やすことで、単純に売上を伸ばすだけでなく、チャンス拡大につなげることができます。
(2)稼働率の増加
稼働率を上げることは、デイサービスの収益を上げるために非常に重要なポイントです。
理想的な稼働率は90%程度ですが、一般的には、80%(※)を維持できていれば特に問題はないとされています。しかし、70%を下回っている場合は、早急に改善策を講じて稼働率を上げる必要があります。
そのためには、デイサービス全体の稼働率を上げるだけでなく、時間帯や曜日ごとの利用率を分析し、空き状況が変動する時間帯を把握することが重要です。
その上で、利用者家族に対して「この時間帯なら空いています」と提案することで、利用者が増加する可能性があります。
また、利用者家族だけでなく、ケアマネージャーへの告知も大切です。ケアマネージャーは、どの時間帯が空いているかを把握していない場合が多いため、しっかりと情報提供を行うことで、さらなる増加が見込めます。
※一般的に理想とされている稼働率です。必ずしも稼働率だけで売上が決まるわけではありません。
(3)1人当たりの介護報酬単価の増加
定員や稼働率を上げられない場合は、客単価を増やす方法を考えることが重要です。
そのために最も簡単な方法は、要介護度3以上の高齢者に絞ることです。要介護度別の介護保険の利用料は、要介護度1で最大16万円程度、要介護度3で最大26万円程度、要介護度5では最大35万円程度となります。
■各要介護度別の支給限度額
要支援1:4,970単位/月
要支援2:10,400単位/月
要介護1:16,580単位/月
要介護2:19,480単位/月
要介護3:26,750単位/月
要介護4:30,600単位/月
要介護5:35,830単位/月
※単位=10円
このように、要介護度が高いほど、客単価が増加しますが、利用者が集まりにくくなるため、「要介護度3以上」に絞ることが理想的です。
ただし、この方法をとるためには、以下のポイントを押さえる必要があります。
・設備や施設のリフォーム
・スタッフのレベルアップ
・高いスキルを持つスタッフの雇用
これらを実行すると、運営コストは大きくなりますが、成功すれば安定した収益を上げる仕組みを構築することができます。
(4)業務の最大効率化
デイサービスの業務を最大限効率化することで、コストカットを実現できます。
例えば、以下のような方法があります。
・関連する記録を整理し、情報が重複しないようにする
・タブレットを導入し、業務の合間に情報を記録する
・朝礼や形式的な会議を廃止する
特に、タブレットなどのITツールを導入することは非常に重要です。
また、不必要な慣習や朝礼、会議が行われている場合、それらを廃止することで、業務の効率化が可能です。業務の効率化に成功すれば、利用者へのケアにあてる時間を増やしたり、余分な残業を減らしたり、スタッフの離職率を下げたりすることができます。
(5)利用回数よりも利用者数の増加を優先する
1週間当たりの利用回数よりも、利用者数を増やす方が重要です。
一例として、週5回の利用者が少数の場合と、週2回の利用者が多数の場合を比較してみましょう。
週5回の利用者が少数の場合、単価は高いものの、1人が退所するだけで売上に大きな影響を与えます。一方、週2回の利用者が多数いる場合、1人が退所しても大きな損失にはつながりません。
もちろん、デイサービスの方針によっては、1週間当たりの利用回数を重視しなければならないこともあるかもしれませんが、利用者数の増加が収益に与える影響を考慮することも大切です。この点を参考にして、より安定した運営を目指してみてください。
【規模別】デイサービスで儲かる仕組みを作る際のポイント
デイサービスの定員別の売上目安と、儲かる仕組みについてご紹介します。
ただし、売上は稼働率や利用時間、人件費、利用者の要介護度などによっても大きく異なります。
そのため、一概に「これだけの人数がいればこの程度の売上になる」と示すことは困難です。そこで、ここではあくまで定員別の売上目安と、規模ごとに儲かる仕組みを作るためのポイントを解説します。
10人程度:月に200万円~250万円
10人規模のデイサービスでは、多くの場合、午前・午後の2回転を採用しています。
また、利益率は6%~10%程度と見込むことができます。
ただし、利用者が少ない段階では、人の呼び込みやリピートしてもらうための営業戦略の工夫が必要です。例えば、以下のような工夫が挙げられます。
・リピートしてもらえるようなサービスの提供
・ケアマネージャーに選ばれるデイサービスになり、新規利用者を獲得
・時間枠が埋まっていたとしても、ほかの時間帯への振替提案を行い、稼働率を上げる
・入浴介助の回転率を上げる
・料理の人件費を削減するため、テイクアウト専門店と提携する
このように、まずは利用者を集め、リピーターを多く作るための工夫をすることが、初期段階における重要なポイントです。
15人程度:月に300万円~380万円
10人規模でスタートし、稼働率を90%ほどで維持できるようになれば、15人~18人への拡大も現実的になります。もちろん、最初から定員を15人~18人にする方法もありますが、その場合、広いスペースのテナントが必要となります。
それに伴い、事業の維持費が大きくなるため、慣れていない段階で人数を集められない場合、赤字につながる可能性があります。
そのため、まずは10人規模からスタートすることをおすすめします。
25人程度:月に500万円~630万円
利用者が25人に達すると、2回転の運営が難しくなります。
なぜなら、利用者数が増えるとスタッフの人数も増やさざるを得なくなるためです。そのため、この規模になると、1日単位で運営するデイサービスが一般的になります。
運営方法が変わるため、もし15人~18人の定員規模で十分に儲かる仕組みが構築できているのであれば、無理に利用者を増やそうとする必要はありません。
35人程度:月に700万円~800万円
定員数が35人規模のデイサービスは、経営基盤がしっかりとしていない限り、運営の難易度が高くなります。広いスペースの物件や、スタッフの増員が必要になるため、小規模のデイサービスよりもリスクが大きくなります。
しかし、成功すれば大きな売上を見込むことができるため、可能であればチャレンジしてみることも1つの選択肢かもしれません。
まとめ
今回は、デイサービスの経営におけるポイントについて解説しました。
高齢化社会の進行に伴い、介護業界の需要は大きくなっています。そのため、デイサービスの需要も確実に増加しています。
しかし、経営の仕組みを構築することがほかのビジネスモデルよりも難しく、赤字や倒産に追い込まれる施設が多いことも事実です。
そのため、デイサービスを開業する際は、まずは10人程度の小規模から始めることをおすすめします。そして、徐々に定員を増やし、稼働率を向上させること、競合との差別化を図り独自の強みを打ち出すことが、成功のポイントになります。