9月の誕生石、サファイア
サファイアは酸化アルミニウムを構成元素とする、コランダムとよばれる鉱物です。和名では青玉、英語名sapphireは「青色」を意味するラテン語「sapphirus」やギリシャ語の「sappheiros」に由来します。このコランダムにはルビーも属しており、実はサファイアとルビーの違いは色の違いでしかなく、鮮紅色のコランダムはルビー、それ以外の色はサファイアと呼ばれます。非常に硬い石で、鉱物の硬度を示すモース硬度においては9(最も硬いダイヤモンドは10)です。9月の誕生石としても知られます。
サファイアにまつわるエピソード
古代のサファイア
旧約聖書は、特に出エジプト記(24:10)で、サファイアについて言及しています。“そして、彼らがイスラエルの神を見ると、その足の下にはサファイアの敷石のごとき物があり、澄み渡るおおぞらのようであった。”という一節にあるように、このようなサファイアの象徴的な蒼色は、常に天の力を連想させてきました。インドではインドラ、ギリシアとローマではゼウスまたはジュピター(ユピテル)と関連付けられます。しかし古代にサファイアと捉えられていた石は、常に「青いコランダム」と一致するとは限りません。紀元前300年のギリシャの博物学者テオプラストスのサファイアや、紀元1世紀の大プリニウスのサファイアの描写は、ラピスラズリを連想させます。
古代では、色の強さは石の性別によるものと考えられていました。したがって、深い青色のサファイアは雄、淡い色の石は雌と見做されました。古代、サファイアは頭痛を和らげ、眼球疲労を癒すと言われます。(これは青い石のヒーリング作用とされることが多いです)。1世紀の医師であり薬学者であったディオスコリデスは、粉状のサファイアをミルクと混ぜて塗布することで、おできや他の感染した傷を癒すと考えました。
中世のサファイア

「三位一体像」
4世紀以降、ゲルマン人の大移動によってフランク族、西ゴート族などの民族がヨーロッパへ到来しました。彼らは、ファラオの時代のエジプトですでに使用されていた複雑な金細工技術である七宝焼きをヨーロッパに伝えました。このプロセスは、銅や金などを使用して細かい区画を作成し、さまざまな色の石を嵌め込むものです。この技法は、フランスのメロヴィング朝とカロリング朝時代の芸術作品にもみられます。「テウデリックの聖遺物箱」、「シャルルマーニュの水差し」、「サン マルタン」として知られる花瓶などはサファイアで飾られています。
12世紀以降、中世の医学では、サファイアには解熱作用、眼病改善、頭痛緩和、口臭予防などの効能があると考えられました。また「貞潔で、清く、汚れのない」状態でいることが、これらの治癒効果を享受するために必要であるといわれました。キリスト教世界においてサファイアは、純潔の象徴であり、聖母マリアと関連付けられることが多く、枢機卿は右手にサファイアの指輪を着用します。
ある伝説では、敬虔なイングランド王エドワード懺悔王はサファイアで飾られた自身の指輪を物乞いに捧げました。この物乞いは、彼を試すために地上に戻った伝道者聖ヨハネでした。聖ヨハネが2人の巡礼者に指輪を託し、2人の巡礼者が指輪をイングランド君主に返します。死後エドワード懺悔王は12世紀に列聖されました。
「聖エドワードのサファイア」は、1838年以来、ビクトリア女王とその後継者たちの王冠を飾ってきました。またルーヴル美術館には、15世紀にさかのぼるサファイアで飾られた宗教作品「三位一体像」が展示されています。
フランスのサファイア
ヨーロッパの宮廷に存在する多くのサファイアは、フランス南部のル ピュイ アン ヴレ(Le Puy en Velay)周辺から産出されたものといわれます。この周辺地域は13世紀以来、サファイアとガーネットの名産地として有名でした。フランス国王シャルル6世とシャルル7世は、これらの宝石を購入するためにこの地へ定期的に立ち寄ったと言われます。
「フランスのサファイア」と呼ばれるル ピュイ アン ヴレ産のサファイアは、唯一のヨーロッパ産サファイアです。それは非常にきれいな青を呈し、歴史的価値、希少価値から博物館も欲しがる貴石です。
王の愛したサファイア
有名なルイ14世の「グラン サフィール」は、1669年に王のコレクションに登場しました。この壮大なベルベットブルーのサファイアは、スリランカ産で135カラットの重量があります。パリのフランス国立自然史博物館で見ることができます。
グラン サフィールと並び有名なのが「ルスポリ」サファイアです。この2つのサファイアは混同されることがよくありますが、これらは2つの異なるサファイアです。グランサフィールとルスポリは大きさは同じくらいですが、カットが異なります。ルスポリサファイアは謎多きサファイアで、一説によれば、スリランカの木製スプーンを売る商人がそれを発見したと言われます。ルスポリという名前は、この石の最初の所有者の1人であるイタリアの王子、フランチェスコ・ルスポリに由来しています。このサファイアは波乱に富んだ運命をたどりました。フランスの宝石商に売却された後、ロシア皇室、そしてルーマニア王室などに次々と所有されました。最終的に1950年頃、とあるアメリカ人に売却されましたが、その後どうなったかはわかりません。
ブラックスターサファイア
1938年、ある少年がオーストラリアで200gを超えるとても美しい黒い石を発見しました。石は何年も家に残っており、ドアストッパーとして使用されたと言われています。少年の父親は、やがてそれがブラックサファイアであることを発見します。この733カラットの「ブラック スター オブ クイーンズランド」は、世界最大級のブラック スター サファイアです。
まとめ
9月の誕生石であるサファイアは古来より高貴な石として世界で重宝されてきました。キリスト教における象徴的な意味を持つ石でもあり、王侯貴族が愛した宝石でもあります。そんな歴史的にも由緒正しいサファイアが誕生石だなんて、9月生まれとしてはなんだか誇らしい気持ちになりますね。