バーバリーの起源
バーバリーの歴史は1856年に始まります。創業者のトーマス・バーバリーは21歳にして、イギリスのベイジングストークに最初の店舗をオープンしました。トーマス・バーバリーはリウマチに苦しんでおり、医師は彼に皮膚呼吸を妨げるゴム製のレインコートを着用しないように勧告します。このことから、バーバリーのアイコンであるコートが誕生することとなります。1880年、彼はギャバジンを発明しました。これは生地を織る前に防水加工を施した糸で織られる生地で、高い強度と防水性を備えていました。
ギャバジンによってバーバリーは目を見張るような成功を収めました。そして1891年、彼はロンドンに新たな店舗をオープンしました。第一次世界大戦が勃発すると、イギリス軍の兵士は、バーバリーの「トレンチコート」を着用し戦地へ赴きました。トレンチ(Trench)とは塹壕の意味で、第一次世界大戦は塹壕に潜って攻防する、塹壕戦が繰り広げられたことでも知られています。さらにバーバリーは、イギリス国王ジョージ5世の御用達にもなりました。
1924年は、ブランドにとって重要な転機となりました。有名な白・黒・キャメルのスコティッシュタータンチェック「ノヴァ チェック」が登場します。そしてトーマス・バーバリーの死後、彼の2人の息子が家業を引き継ぎ、ブランドを英国女王エリザベス2世の公式サプライヤーにしました。バーバリーチェックのトレンチコートにより、ブランドイメージは確立され、トレンチコートの代名詞として、長らくその人気を揺るぎないものにしていました。しかし盛者必衰、1990年代にはあらゆる種類のライセンスビジネスにもかかわらず、革新性の欠如により、バーバリーはその輝きを失いつつありました。
クリストファー・ベイリーによるブランド再建
ブランドの窮地を救ったのが、2001年アーティスティックディレクションの責任者に任命されたデザイナーのクリストファー・ベイリーです。彼はバーバリーのアイデンティティを再定義し、ブランドイメージの再建を図りました。クリストファー・ベイリーは、メゾンのスピリットであるトレンチコートに新たなアプローチをする一方で、ライブミュージックパフォーマンスなど斬新なランウェイでの演出、革新的なソーシャルメディアコラボレーションなど、ロンドンファッション全体にルネッサンスを起こしたとすら言える存在でもありました。
さらに、クリストファー・ベイリーは、ファッション分野におけるデジタル活用のパイオニアの1人です。2009年、彼は春夏ファッションショーをインターネットで生中継し、VIP以外にもコレクションをみられるよう、ランウェイを“民主化”しました。さらに2011年、彼はTwitterを活用して、ショーの傍らでシルエットを公開することで、インターネットユーザーがTwitterでコレクションにアクセスできるようにする、「Tweetwalk」を作成しました。
その5年後は、「see-now, buy-now」というコンセプトを打ち出し、ショーの翌日にコレクションアイテムを注文できるプロセスを確立しました。そうした数々の革新によってバーバリーを復活させたクリストファー・ベイリーは、17年にわたりこのブランドへ奉仕しました。彼が去った後、2018年3月には、ジバンシーなどで活躍したイタリア人デザイナーのリカルド・ティッシが後を継ぎ、メゾンの新しい時代が幕を開けました。
リカルド・ティッシによるエシカルモード
リカルド・ティッシがアーティスティックディレクションを引き継いだとき、彼は前任者と同様に、バーバリーのアイデンティティを根本から見直しました。クリストファー・ベイリーが敷設したデジタルの道のりを拡張し、リカルド・ティッシはインスタグラムを通じてレーベルの新しいビジュアル・アイデンティティを発表します。そしてリカルド・ティッシのバーバリーでの最初のショーでは、バーバリーは動物の毛皮の使用をやめ、売れ残った製品を破棄しないことを宣言しました。リカルド・ティッシはブランドのコミットメントを再定義して、エシカルな配慮を表明しました。バーバリーはサスティナブルなファッションを再考し、リサイクル、修理、さらには寄付を奨励しています。
リカルド・ティッシは革新の中でもブランドのルーツを常に意識していました。2019年春にはモノグラムコレクションを発表します。これはブランドの創始者であるトーマス・バーバリーに敬意を表して「TB」のイニシャルをデザイン化したものです。また、サスティナブルなクリエーションを意識的に展開し、持続可能で革新的な素材を積極的にコレクションに組み込んでいきます。リカルド・ティッシは、ゴシックな要素をエレガントに表現することに長けたデザイナーであり、彼の最後のコレクションとなった2023年の春夏コレクションは、スイムウェアやフィッシュネットのようなビーチの要素に、ゴシックな気品を纏わせたスタイルで、有終の美を飾りました。
ダニエル・リーの切り開く、バーバリーの新章
2022年9月、リカルド・ティッシの退任から間髪容れずにに発表されたのが、英国人デザイナー、ダニエル・リーのクリエイティブディレクター就任でした。ダニエル・リーは今最も注目されるクリエイターの一人で、フィービー・ファイロ時代のセリーヌでの活躍や、ボッデガ・ヴェネタのイメージ刷新など、弱冠36歳にして数々の実績を残しているデザイナーです。2023年2月のロンドンファッションウィークでは彼による初のコレクションが発表され、ブランドのルーツに忠実であるとともに大きな変化を印象付けたコレクションとなりました。
モチーフとしてコレクション全体に登場するアヒルは“Lovely weather for ducks!”つまりアヒルのための素敵な天気!=悪天候を皮肉的に言うブリティッシュジョークを彷彿させています。バーバリーのトレンチコートもそんなイギリスの悪天候がきっかけとなって誕生したものです。
アヒル柄に加え、バーバリーチェックを斜めに配したビビッドなモチーフ、そして、近年流行している誇張されたアクセサリー使いや、鮮やかなブルーを象徴的に配した色使いなど、より若々しさを感じるスタイリングが目立ちました。ブランドの伝統的なコードを踏まえつつも、新たなテーマカラー、新たな客層へのアプローチを明確に伝えたコレクションとなりました。
まとめ
イギリスを代表するファッションブランド、バーバリーの生い立ちについて紹介しました。創業者トーマス・バーバリーによるギャバジンの発明から誕生したトレンチコートは、防水性と耐久性において高いパフォーマンスをほこり、探検家や軍人などにも着用される機能性を備えたマスターピースでした。一時低迷するもクリストファー・ベイリーの巧みな舵取りで、ラグジュアリーブランドとして見事に復活を果たし、彼の去った後もリカルド・ティッシやダニエル・リーなど新たなクリエイターによって更なる進化をみせています。