カルティエウォッチの歩み
カルティエは1847年、宝石職人のルイ=フランソワ・カルティエ(Louis-François Cartier)がパリで創業したジュエリーブランドです。1899年に3人の息子たちが舵取りを行い、王侯貴族を顧客にするほどの人気を博し、その名声はヨーロッパ中に広まります。その名声はエドワード7世の「王のジュエラーであり、ジュエラーの王」という言葉に象徴されます。
ジュエリーに加えて時計の製造も早くから手掛けており、その嚆矢として1904年、世界初の腕時計「サントス」、1906年の「トノー」、1919年の「タンク」など今に生きる名作を早くから生み出しました。1933年には「パンテール」の異名でカルティエのクリエーションに大きく寄与するジャンヌ・トゥーサンがジュエリーデザインのディレクターに着任します。1938年に世界で最も小さいブレスレット・ウォッチの一つが製作され、エリザベス王女に贈られました。
その後、1980年代にはタンクから派生した「タンクフランセーズ」や、「タンクアメリケーヌ」が誕生します。2001年には、スイス時計製造の町ラ・ショー=ド=フォンに時計のマニュファクチュール(製造会社)を設立します。また「ロードスター」もこの年に発売されます。
マニュファクチュールの設立はカルティエの時計に更なる技術革新をもたらします。2007年には「バロンブルー」が誕生し、翌年トゥールビヨン(姿勢や角度などの違いによるズレをなくす機能)を搭載したキャリバー9452MCを備えた複雑機構のバロンブルーも発売されます。2010年には「アストロトゥールビヨン」のムーブメントが開発され、2013年には「ロトンド ドゥ カルティエ ミステリアス ダブル トゥールビヨン」を発表するなど、複雑機構をカルティエらしい洗練されたデザインに組み入れて、新たなカルティエウォッチの顔をみせています。
サントス(Santos)
サントスはカルティエの代表作であるとともに、世界初の腕時計としても知られています。これは飛行家でルイ・カルティエの友人でもあったアルベルト・サントス=デュモンの「飛行中に飛行機の操縦桿から手を放さずに時間を確認できる時計が欲しい」という要望を受けてデザインされた時計でした。ミニマルなスクエアフォルムのダイアルはベゼルのビスを敢えてデザインとしてみせるように設えています。現在のモデルのムーヴメントに使われている1847MCは3.8㎜という薄さで、脱進機には非磁性のものが使われており、日常に存在する強い磁場にも耐えうる仕様になっています。
トノー(Tonneau)
1906年に誕生した腕時計で、ワインを熟成する樽(=フランス語でTonneau)から着想を得た、独特な曲線美を有するフォルムが特徴です。2019年発表のトノーには1917MCというトノー型の3㎜に満たない超薄型ムーヴメントが搭載され、大いに注目されました。その独特なフォルムと薄さに加え、コートドジュネーヴと呼ばれる波打つような模様が施されており、ムーブメントだけでも芸術品と呼べる美しい仕上がりです。また、リューズに施されたサファイヤカボションは優れたジュエラーであるカルティエらしい意匠を象徴しており、トノーに適用されて以来、カルティエの腕時計のアイコンになっています。
タンク(Tank)
タンクは1917年第一次世界大戦のさなかに着想された時計です。大戦で活躍したルノー製戦車を上から見たフォルムにインスピレーションを得てデザインされました。この時計は1919年11月12日に発売されます。これは第一次世界大戦の終止符であるヴェルサイユ講和条約が締結された後というタイミングです。タンクをデザインしたルイ・カルティエは、大戦が終わらない限りタンクを発売しないという考えがあり、彼の平和への想いが込められたメモリアルピースともいえる時計なのです。タンクには姉妹モデルもあり、メタルブレスレットで正方形に近いフォルムの文字盤を備えた「タンクフランセーズ」、長方形を細長く伸ばしたような文字盤の「タンクアメリケーヌ」も存在します。最新モデルでは太陽光により動力を得る「ソーラービート」という機構を搭載したものもあります。
パシャ(Pasha)
カルティエ初のダイバーウォッチとして1932年に誕生したパシャ。マラケッシュのパシャ(太守)が「着けたままプールで泳げる時計が欲しい」という要望をルイ・カルティエに伝えたことがこの時計が誕生するきっかけとなりました。カルティエのコレクションとしては1943年からラインナップされました。発売当時の防水時計の技術の粋とデザイン性を高次元で融合した時計で、37時間駆動、100メートル防水、ステンレスケース、ポリッシュ仕上げのスチールベゼル、夜光時針、アラビア文字盤というユニークなディテールを備えていました。
最後に
カルティエの代表的な時計を紹介しました。時代の空気を読み取る鋭い感性、洗練されたデザインと奇想天外な発想を兼ね備えたカルティエはジュエリーにおいても時計においても常に革新的なマスターピースを生み出してきました。この記事では時計を中心に紹介しましたが、ジュエリーにおいてもその卓越したクリエイティビティは健在です。ぜひカルティエのジュエリーもチェックしてみてください。